大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)2079号 判決 1972年2月22日
原告
友田幸子
ほか三名
被告
株式会社大松
ほか二名
主文
被告岡重明、被告平瀬正夫は連帯して、
原告友田幸子に九〇六、二三三円
原告友田宣明、同友田大志に各五八〇、〇二七円
原告友田一郎に九八、五一〇円、
及びこれに対する被告岡重明は昭和四四年七月九日より、被告平瀬正夫は同年五月一〇日より各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告らの被告岡重明、同平瀬正夫に対するその余の請求及び被告株式会社大松に対する請求を棄却する。
訴訟費用は原告らと被告株式会社大松との間に生じた分は原告らの負担とし、原告らと被告岡重明、同平瀬正夫との間に生じた分はこれを五分し、その一を右被告両名の、その余を原告らの各負担とする。
この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一双方の申立
(原告ら)
被告らは各自、
原告友田幸子に対し六、三九六、一三二円
原告友田宣明、同友田大志に対し各々二、五一一、七六九円
原告友田一郎に対し五〇万円
及びこれらに対する本件訴状送達の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに仮執行宣言。
(被告ら)
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二請求の原因
一 事故
訴外友田昭三郎は次の交通事故により死亡した。
(一) 日時 昭和四三年九月二七日午前一時二〇分頃
(二) 場所 和歌山市中五六六番地先道路上
(三) 事故車 小型貨物自動車(泉四ひ七四六号)
右運転者 被告平瀬正夫(南進)
(四) 被害者 訴外友田昭三郎(同乗者)
(五) 態様 被告平瀬は事故車を運転中、
道路左端ガードレールに衝突。
(六) 訴外友田昭三郎は、右事故により頭蓋骨骨折、脳脱の傷害を受け、同日午前七時二五分、和歌山市小松原通り四丁目和歌山赤十字病院で死亡した。
(七) 身分関係(権利の承継)
<省略>
二 責任原因
(一) 被告岡は、本件事故車を訴外株式会社大阪西マツダより訴外池内定名義で購入し(所有名義は右訴外会社、使用者名義は右訴外人であつた。)、被告会社と共同して運行の用に供していたものである。
即ち、被告会社は被告岡の実父岡重太郎(代表取締役)が経営する寿司店で、鮮魚商を営む被告岡とは密接な関係があり、もつぱら同人より寿司材料を仕入れているものである。
ところで、右鮮魚店はもと前記岡重太郎が経営していたもので、被告平瀬も右重太郎に雇用されたものであり、これら店舗、老舗、従業員をも含め息子の被告岡に譲つたが、その後も取引を通じ又身分関係を通じ、重太郎が実質上支配しているものである。
更に、本件事故車は、その車体に「大松すし」、「大松鮮魚店」と大書し、被告会社と被告岡が共同で運行の用に供し、運行利益を共有していることを明示して使用していたものである。
そして本件事故車は被告会社代表者岡重太郎宅のガレージに管理保管しているものであり、本件運行のような従業員のリクリエーシヨン或は休日の業務外の使用を被告会社、被告岡ともに許容していたもので運行支配を有していたこと明かである。
(二) 被告平瀬は、最高速度違反、追越禁止違反ハンドル・ブレーキ操作不適当の過失により本件事故を起した。
三 損害
(一) 訴外昭三郎の逸失利益 七、五七二、一八〇円
職業 瀬戸物販売業
月収 五万円、生活費三割
年令 四一才
就労可能年数 三〇・八四年
原告幸子、同宣明、同大志の各相続分は右の三分の一、二、五二四、〇六〇円である。
(二) 原告らの慰藉料 合計五、五〇〇、〇〇〇円
原告幸子 三〇〇万円
同宣明、同大志 一〇〇万円
同一郎 五〇万円
(三) 葬儀関係費用
原告幸子は亡昭三郎の葬儀につき次のとおりの支払をし、同額の損害を蒙つた。
葬祭費
浪速殿支払分 一一一、八〇〇円
互助センター支払分 七九、五四五円
墓碑建立費
墓地永代使用料 一三五、〇〇〇円
墓地永代管理料 三〇、〇〇〇円
墓石費 三二五、〇〇〇円
墓地囲石費 六、〇〇〇円
香典返し費用 一四三、〇二〇円
(四) 弁護士費用 一、〇〇〇、〇〇〇円
原告幸子は本件訴訟の提起をその代理人に委任し、着手金三〇〇、〇〇〇円を支払い、成功報酬七〇〇、〇〇〇円の支払を約した。
(五) 損益相殺
自賠責保険より三、〇三六、八七五円の支払を受けたので、うち一、〇一二、二九三円を原告幸子の、うち一、〇一二、二九一円の同宣明の、同額を同大志の各損害と対当額で相殺する。
四 よつて、被告らに対し、原告幸子は六、三九六、一三二円、原告宣明、同大志は各二、五一一、七六九円同一郎は五〇〇、〇〇〇円及びこれらに対する本訴状送達の翌日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第二被告らの答弁と主張
(被告会社、同岡)
一 請求原因一項中原告主張の日時場所において訴外友田昭三郎同乗、被告平瀬運転の事故車が、ガードレールに衝突し、右訴外人が死亡した事実は認める、その余の事実は不知。
同二項中、事故車は訴外株式会社大阪西マツダの所有に属し、使用者名義は訴外池内定名義であるところ、被告岡においてこれを運行の用に供していたことは認めるが、被告会社が運行供用者であることは否認する。被告会社が被告岡と共同して本件事故車につき運行支配し、運行利益を得ていた事実はない。
同三項は不知。
二 訴外昭三郎は道案内を依頼されながら本件事故現場附近で居眠りを続けており、そのため、本件事故が発生し、被害の拡大を招いたものであり、同人の過失の程度は五割を下らない。
被告会社、同岡に損害賠償義務があるとすれば過失相殺さるべきである。
(被告平瀬)
一 請求原因一項は(七)(原告らの身分関係)を除く外全て認める。
同三項(一)乃至(四)は争う。自賠責保険より三、〇三六、八七五円の支払がなされた事実は認める。
二 訴外昭三郎は今池市場の魚釣同好者と同好会をつくりその責任者として、積立金の集金、会計等を担当していたものであるところ、同人は昭和四三年九月二七日に今池市場の休日を利用して白浜に磯釣に行くことを計画し、その前日右今池市場大松鮮魚店において、釣餌を調達した際、同店店員谷口清、被告平瀬を、偶々同時に餌を取りに来た訴外玉手某が他車は時速六〇乃至七〇キロで走行するから、地理不案内な者にとつては危険だから止めておけと注意したのに対し、自分が運転して同行するから危険はないと勧誘し、ここに被告平瀬は右磯釣に参加することとなり、右訴外昭三郎は訴外浜田条治運転車に同乗する予定を変更し本件事故車で釣りに出かけることとなつた。
そこで被告平瀬は本件事故車を運転して訴外昭三郎方に赴き、同人の命によりそのまま運転して白浜に向う途中、いわゆる孝子峠のカーブの多い本件現場に差しかかつたのであるが、訴外昭三郎は居眠りをして適切な指示を与えなかつたため、被告平瀬は深夜、小雨中の状態でカーブ状況を充分予測出来なかつたため右カーブに気付くことが遅れ右折の際車左前部をガードレールに衝突させたものである。
従つて、訴外昭三郎は単なる道案内のため同乗していたものでなく、実質は訴外昭三郎が被告平瀬を介して被告岡から事故車を借り受け、自己が運転すべきところを被告平瀬に運転させていたもので、同訴外人の運行支配下にあつたものであり、被告平瀬の過失についても同訴外人に責任の大半があり、単なる好意同乗者ではない。当然本件損害額の算定について斟酌さるべきである。
第三原告らの答弁
一 今池市場の魚釣り同好会は会員各自の自動車に分乗して各地の釣り場に出かけるのを慣例としており被告会社代表者重太郎、被告岡も会員であつた。従つて被告会社、被告岡が訴外昭三郎が事故車に便乗することを知つたとしても、これを拒絶することなど到底ありえないのであり、被告会社、同岡は運行支配を失つていない。
二 昭三郎が事故車に便乗したのは当時同人の車が故障であつたこと、訴外谷口清が白浜に行きたいと案内を頼み、被告平瀬も白浜に行きたいが釣り場までの道順を知らないので案内を頼むと云つたので案内役を務めたこと、事故車は被告平瀬が日頃運転している車で慣れていたことによるものであり、訴外昭三郎が無理に便乗した事情はない。
三 そして、昭三郎は午前〇時四〇分頃、被告平瀬に対し、「ここから一本道やから気をつけて走つてくれ」と指示した後二〇分後に被告平瀬の減速徐行義務違反、前方不注視、ハンドル、ブレーキ操作不適当の過失により本件事故が発生したもので、昭三郎の仮 とは因果関係がない。
四 被告平瀬の過失は本件事故における唯一最大の過失であり、仮に昭三郎に何らかの過失があつたとしても過失相殺の対象となるほどの過失ではない。
五 訴外昭三郎の如く単に無償で便乗したに過ぎない同乗者について危険負担、過失相殺を論じ損害を減額させることは許されない。
たかだか慰藉料算定の一事由として考慮するに止めるべきである。
第四証拠〔略〕
理由
一1 原告らと被告平瀬との間において、請求原因一の(一)乃至(六)の事実は争いない。
2 原告らと被告会社、被告岡との間において、請求原因一の(一)乃至(五)の事実及び訴外友田昭三郎が死亡した事実は争いない。そして〔証拠略〕によれば、訴外友田昭三郎は、右本件事故により、頭蓋骨々折、脳脱の傷害を受け昭和四三年九月二七日午前七時二五分和歌山市小松原通四の一和歌山赤十字病院において死亡するに至つたことが認められる。
二 〔証拠略〕によれば、訴外昭三郎は原告友田一郎、訴外友田ヒサヱの三男として昭和二年五月一三日出生し、原告友田幸子と昭和二八年一月一九日婚姻し、同年九月八日長男原告宣明を、同三二年二月三日次男原告大志をそれぞれ儲けた事実、訴外昭三郎の母ヒサヱは同訴外人が結婚した一〇日後頃死亡した事実が各々認められる。
三1 原告らと被告岡との間において、被告岡が本件事故車を運行の用に供していたことは争いない。
2 原告らと被告平瀬との間において、請求原因二(二)は被告平瀬において明かに争わないのでこれを自白したものと看做す。
3 次に、被告会社の運行供用者責任につき案ずるに、〔証拠略〕によれば、被告会社代表者岡重太郎はもと大阪市内今池市場において「大松鮮魚店」の名称で鮮魚商を営んでいたが、体質が弱かつたため、昭和三九・四〇年頃、同店の番頭が独立した際、同店を一切息子である被告岡重明に譲り経営から手を引いたが店舗の借用名義の一部は従前のとおりのままで置き、又昭和四三年頃は同市場内の共栄会会長に就任し市場の世話をしたこともあつた。ところで被告岡は昭和四三年四月下旬頃本件事故車を購入し、鮮魚の仕入、配達に使用していた。
一方、被告会社は昭和四二年六月二〇日飲食業を目的として設立され、岡重太郎一族が役員に就任している同族会社であるが、事実上被告岡の妹夫婦が「大松寿司」の名称で寿司屋業を営んでおり、仕入は中央市場から直接或は右「大松鮮魚店」から購入しており、出前配達は被告岡の妹婿輝男がしている。唯、中央市場からの仕入は右同人が電話で注文し、「大松鮮魚店」の仕入品と共に被告岡が運送会社の車に混載し持ち帰つていた。
又、本件事故車は岡重太郎方倉庫に保管されていたが、その管理維持は右同人と同居している被告岡がしていた。以上の事実が認められ、これに反する〔証拠略〕は採用しない。
してみると、本件事故車に「大松寿司」と「大松鮮魚店」との表示がされていても、未だ被告会社が本件事故車を運行の用に供していたものと認めることはできない。又、他に被告会社が本件事故車につきその運行を支配し、運行につき利益を得ていたことを認めるに足る証拠はない。
原告らの被告会社に対する本訴請求は理由がない。
四1 訴外昭三郎の得べかりし利益の損失額
〔証拠略〕によれば、亡友田昭三郎は本件事故当時、前記今池市場内に店舗をかまえていた丸一陶器有限会社の代表者として一ケ月五万円の収入があつたことが認められる。
そして前記認定事実二によれば、当時同人は満四一才であつたことが認められるから向後の就労年数は二二年間(ホフマン係数一四・五八)で、この間の生活費は収入の三分の一とするのが相当である。すると右訴外の逸失利益は五、八三二、〇〇〇円となり、従つて、原告幸子、同宣明同大志の相続分は各右の三分の一、一、九四四、〇〇〇円となる。
2 原告らの慰藉料
本件事故により原告らが父、妻、子として多大な精神的苦痛を蒙つたであろうことは相像に難くないところ、本件証拠上認められる諸般の事情(但し後述の過失相殺の点は除く)を斟酌すると原告幸子の慰藉料は一五〇万円同宣明、同大志のそれは一〇〇万円、同一部の慰藉料は五〇万円とそれぞれ認めるのが相当である。
3 葬儀費用
〔証拠略〕によれば原告幸子は葬儀として一九一、三四五円を支出した(請求の範囲内である右金額を認める)ことが認められ、同額の損害を蒙むつたと云うべきである。
原告幸子は更に墓地永代使用料、同管理料同囲石費用、香典返し費用を損害として請求するが本件事故と相当因果関係ある損害とは認められない。
又墓石費として三二万一、〇〇〇円を請求するが右を支払したと認めるに足る証拠はない。
4 過失相殺
〔証拠略〕によれば、訴外友田昭三郎はかねて今池市場において釣同好会をつくりこれまで何度か、会員の車に分乗して釣に出かけていたが、昭和四三年九月二七日白浜方面に釣に出かけることを計画し、参加者を募つていたが、「大松鮮魚店」の店員谷口清にこれを話したところ同人もこれを受け更に同店店員の被告平瀬も白浜方面の地理不案内ではあるが本件事故車を使用してこれに参加することとなつた。ところで、右前日の午後六時頃、右同好会の会員であり、今回の釣に参加することになつていた訴外玉手正雄は右鮮魚店に餌を取りに来て右のいきさつを聞知し、これをとめたが結局訴外昭三郎が本件事故車に同乗して誘導案内して行こうと云うことになり、九月二七日午前〇時頃、被告平瀬が運転、昭三郎が助手席に、訴外谷口清が後部座席に同乗して出発した。その後四〇分程走つた処で昭三郎は被告平瀬に対し「ここから一本道やから気をつけて走つてくれ」と云つたままであつたが、途中被告がカーブに差しかかり不安を感じ友田を見ると居眠りしていたのでそのまま進行し本件事故が発生した事実が認められる。
してみると訴外昭三郎は単なる好意同乗者ではないものと云うべく、同人が被告平瀬に運転を任せきりにし、事故現場の状況の説明、速度の加減、ハンドル捌き等適切な指示誘導をしなかつた点にも事故発生の原因があるものと云わなければならない。そしてその程度は本件証拠により認められる事故の状況、被告平瀬の過失内容等を考慮し、前記損害額から五割を減ずるのを相当とする。
従つて、被告らが賠償すべき損害額は昭三郎の逸失利益二、九一六、〇〇〇円(原告幸子、宣明、大志は各九七二、〇〇〇円)、原告幸子の慰藉料七五万円、同宣明、同大志の各五〇万円、同一郎の二五万円、葬儀費用九五、六七二円となる。
五 損益相殺
原告幸子、同宣明、同大志が自賠責保険より三、〇三六、八七五円の給付を受けた事実は被告平瀬との間においては争いなく、被告会社、同岡との間では原告の自認するところである。そして、右は原告らの各債権額に応じ、原告幸子に一、一〇一、四三九円、原告宣明、大志に各八九一、九七三円、原告一郎に一五一、四九〇円宛充当する。
六 弁護士費用
弁論の全趣旨に徴し、原告幸子が本件提起をその訴訟代理人に委任し、弁護士費用の支払義務を負担していることが認められるところ、事案の内容、審理の経過、認容額その他諸般の事情に照し、一九〇、〇〇〇円を本件事故と相当因果関係ある損害と認める。
七 よつて、被告岡重明、同平瀬正夫は原告友田幸子に対し九〇六、二三三円、同友田宣明同友田大志に対し、五八〇、〇二七円同友田一郎に対し九八、五一〇円とこれに対する本訴状送達の翌日であること本件記録上明かな被告平瀬正夫は昭和四四年五月一〇日より、被告岡重明は同年七月九日より各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務あると云うべく、原告らの本訴請求は右の限度で理由があり、その余は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条九二条を、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 菅納一郎)